インターネットが学者の連絡網や趣味人のお遊びではなく、生活の中にごく普通に存在するようになった現在、既存の多くのサービスがインターネット上でも提供されるようになるとともに、インターネットならではのサービスも登場し、多くの人に利用されています。
私は、そんなインターネットならではのサービスと言える、JRA(中央競馬)の公式データ配信サービスである「JRA-VAN」のサービスを利用しています。具体的には、JRA-VANの中の「Data Lab.」と呼ばれるサービスを利用しています。これは、中央競馬や地方競馬などの開催情報や競走馬や騎手の成績など、競馬に関する過去や現在の情報をインターネット経由で取得できるデータ配信サービスです。このような大規模なデータベース・サービスが安価に提供されるようになったのは、インターネットのような環境が整った点が大きいでしょう。
ちなみに、このData Lab.サービスはいろいろな形で利用できますが、私は自作プログラムでデータのダウンロードや表示・統計処理をして利用しています。
■発端
さて、問題はここからです。
先日、Data Lab.サービスの開発者向け掲示板の過去ログを読んでいたところ、「JRA-VANが提供している情報を元に行なった予想は、利用規約 第5条の規定により、私的使用以外できず、Blogなどに予想を書くのは禁止されている」、という旨のJRA-VAN側によると思われる書き込みが見付かりました。
以下、「http://forum.jra-van.ne.jp/cgi-bin/datalab/bbsjvlink/datalabbbs.cgi?mode=allread&no=579&pastlog=0001&act=past#579」より抜粋。
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第5条(情報の利用範囲)
……中略
このことにおいて、「得られた情報の一部を抽出して公開」も禁止されています。また、データそのものを公開しなくても、データラボのデータを使って予想した買い目を公開することも禁止されています。
データラボサービスは、個人で利用して楽しむためのサービスとなっており、HPで公開することは、データの一部や加工後のもの(予想)に関わらず違反です。
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この「予想をHPに書くのが違反」という指摘に、私は大変驚きました。このような説明は、JRA-VANのサービス説明に書かれていませんし、「よくある質問」でも触れられていません。この見解をそのまま受け入れると、JRA-VANの利用者は自分のBlogに「明日の○○賞は、新聞では○○○の人気が高いようだけれども、私は○×○と○△○が来ると思う」などといった日記を書くことも出来なくなるように思えました。Data Lab.サービスの謳い文句は、「様々な予想ソフトを駆使して自由に楽しむ!データ競馬の醍醐味をわかる人のためのData Lab.」「膨大なJRA公式データを自由自在に分析・活用!データ競馬の世界が拡がる!新・データ配信サービス」となっており、そのような厳しい利用制限のあるサービスを利用しているつもりが全くなかったのです。
また、禁止される理由が「第5条」というのも、まったく想像外でした。第5条は、著作権に関する規定と思われましたが、「予想」が著作権的にどう問題なのか想像できなかったのです。
以下、JRA=VANの利用規約を「http://jra-van.jp/info/rule.html」より抜粋します。
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(情報の利用範囲)
第5条 お客様は、本人が自ら個人として私的に使用する以外に、本サービスを通じて入手した一切の情報を、複製、改変、翻案、放送、有線送信、インターネット、編集、出版、上映、演奏、頒布、販売するなどいかなる方法によっても、使用したり公表したりすることができません。
2. お客様は、第三者をして、本サービスを通じて入手した一切の情報を、営利を目的とするか否かを問わず複製、改変、翻案、放送、有線送信、インターネット、編集、出版、上映、演奏、頒布、販売するなどいかなる方法によっても、使用させたり、公表させたりすることはできません。
3. 前2項にかかわらず、JRA-VAN登録ソフトのソフト紹介を目的とした場合など、TMSが認めた場合はこの限りではありません。
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■JRA-VANとのやり取り
そこで、JRA-VAN(ターフ・メディア・システム)のサポートの方とメールのやり取りを通してJRA-VANの見解をお聞きしたのですが、やはり掲示板に書かれているのと基本的に同じで、「Blogに予想を書くのは利用規約 第5条に違反するので止めるよう」はっきり警告されてしまいました。
ターフ・メディア・システムのサポートの方とのやり取りの流れを要約すると、おおむね次のようになります。
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[1] <私>
「データラボを使って算出した予想」は「本サービスを通じて入手した」情報ではないのではないか。
[2] <ターフ・メディア・システム>
「データラボから入手した情報の改変、翻案」 にあたる。
[3] <私>
「改変、翻案」にあたる根拠は何か。
[4] <ターフ・メディア・システム>
「改変、翻案」以前に「本人が自ら個人として私的に使用する」という用途に収まらない。
[5] <私>
「本人が自ら個人として私的に使用する」という制限は、「本サービスを通じて入手した一切の情報」に限定されていると解釈されるのではないか。
[6] <ターフ・メディア・システム>
その通り。
[7] <私>
私は「情報の改変、翻案」にあたる理由を聞いているのであって、答になっていない。
[8] <ターフ・メディア・システム>
弊社では、データラボサービスを用いて算出して得られる予想は「本サービスを通じて入手した」ものと考えています。それに対し利用規約では、弊社●●が回答した「データラボから入手した情報の改変、翻案」があたると考えいます。
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「情報の改変・翻案にあたる」というターフ・メディア・システム側の解釈はまったく驚きでした。私は、第5条の「改変・翻案」については、著作権における改変・翻案をイメージしていたからです。たとえば、小説を読んだとして、その感想や書評が小説の改変や翻案に該当するとは考えていませんでしたので、JRA-VANで提供されている出馬表データを見たとして、「この馬とこの馬が来そうだな」といった感想(予想)が、JRA-VANで提供されているデータ(出馬表)の改変・翻案に当たるとはまったく思えません。
他にも、「規約上はすべてを禁じている」「現実的には程度の問題で黙認しているのも事実」のような話もありましたが、とにかく、「情報の改変、翻案」の件については話が完全にすれ違ってしまいました。
■弁護士会の法律相談サービスへ
話がすれ違っていますし、予想が改変・翻案にあたるというJRA-VAN側の主張はどうしても納得できませんでしたので、第二東京弁護士会の新宿法律相談センターに行き、弁護士さんにJRA-VANの主張について相談してみました。
相談結果は、私にとって意外なものになりました。
まず、第5条の改変・翻案は、私の想像通り、著作権における改変・翻案と解釈するのが妥当とのことで、さらに『「予想が改変・翻案にあたる」とは言えない』というのが相談した弁護士さんの意見でした。
しかし、では予想をBlogなどに書くのは規約上自由なのかというと、弁護士さんは「この規約上、そうはならない」というのです。
問題になるのは、第5条の改変・翻案うんぬんの後に書かれている、「使用したり公表したりすることができません」の、「使用」が問題なのだそうです。
なにせ「使用」してはいけないのですから、これはもう、あらゆることを非常に広く制限している規約だそうでして、正直に規約を守ろうと思えば、たとえば友人に予想を話すどころか、明日のレースに出る馬の名前を口にすることも出来ません。情報を「使用」しているわけですから。当然、予想そのものだけでなく、自分の予想の精度を測るために過去データを使って検証した結果を話すことも出来ません。もうこれでは、JRA-VANを使う限り、Blogに書くかどうかだけではなく、規約上は、競馬の話題が他人との間で成り立たなくなります。ターフ・メディア・システムがなぜか拘っていた「情報の改変・翻案」なんてどうでもよく、サービスを使う限り、著作権の範囲を超えたアン・リミテッドな規定だったわけです。
些細な行為が規約違反になることについては、ターフ・メディア・システムの方は「黙認している」と言っているわけですが、何をどこまで黙認するかはあちら様の勝手であり、利用者としてはいつ規約違反に問われてもおかしくない心づもりでいなければなりません。これが「様々な予想ソフトを駆使して自由に楽しむ!データ競馬の醍醐味をわかる人のためのData Lab.」「膨大なJRA公式データを自由自在に分析・活用!データ競馬の世界が拡がる!新・データ配信サービス」と謳うJRA-VANのサービスだったわけです。「自由」だの「世界が拡がる」だの、冗談がきつすぎます。
この制限から逃れるには、サービスの使用を止めるだけでなく、サービスを使用して求めた予想や予想に必要なパラメータの類をいったんすべて忘れて、改めてJRA-VAN以外のどこからかデータを持ってこなければなりません。サービスの運営会社側としては、争いになったときに絶対負けないための規約ということなのでしょうが、善良な利用者を規約違反から逃れがたい状態にした上で黙認するという手法が正しいとはとても思えません。ターフ・メディア・システムには、善良な利用者による常識的な行為が規約違反にならないように利用規約を改定していただけることを強く望みます。